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前置胎盤

前置胎盤とは?

胎盤が正常より低い位置(膣に近い側)に付着してしまい、そのために胎盤が子宮の出口(内子宮口)の一部/全部を覆っている状態を「前置胎盤」といいます。全分娩のおおよそ1%弱を占めています。通常、経膣分娩(下からのお産)では赤ちゃん→胎盤の順に出てきますが、前置胎盤では、胎盤が赤ちゃんよりも下(膣)側にあります。胎盤→赤ちゃんの順に下から出てしまうと、胎盤が出る時に大出血してしまい、また、胎盤が出た時点で赤ちゃんは「胎盤からの栄養が途切れ」「自分はまだ子宮内にいるから呼吸もできず」という状態になってしまいます。したがって、前置胎盤の場合には、ほぼ100%が帝王切開分娩です。

どんな人がなりやすいの?

前置胎盤がおこる理由はよくわかっていません。ただ、そのリスクはわかってきています。高齢妊娠、 喫煙者、多産婦、双胎、以前に子宮の手術を受けた(帝王切開、流産・妊娠中絶手術、筋腫核出)などが前置胎盤のリスクです。最近、前置胎盤は増えてきています。

症状は?

産婦人科健診の超音波検査で発見される方がほとんどで、無症状です。ただ、痛みが無いのに急に出血してくることもあります(警告出血)。警告出血は少量の出血が数回というパターンが多いのですが、「第1回目の警告出血がいきなり大出血」のこともあります。性器出血があった場合には、腹痛がなくても、すぐ産婦人科を受診してください。お腹が張る(子宮収縮がある)と出血しやすくなります。健診などで「前置胎盤の疑いがある」と言われている方は特に、またそのように言われていない方も、出血には注意してください。妊娠28週程度以降には、お腹が大きくなり張りやすくなるので、その時期以降の出血が多いですが、それより浅い週数でも油断はできません。

いつ頃診断されるの?

超音波で診断します。妊娠の早い時期に前置胎盤と診断されても、妊娠が進み子宮が大きくなると徐々に胎盤が上にあがり(子宮口から離れていって)、最終的には前置胎盤でなくなる例が多数あります。ですから、妊娠中期頃までの「(仮)前置胎盤」は過度に心配するにはおよびません。一方、妊娠31週末頃に「前置胎盤」である場合、その時点から胎盤が上がっていく(前置胎盤でなくなってしまう)例はほとんどありません。妊娠32週で前置胎盤と診断された場合には、「自分は前置胎盤だ」と考えていいでしょう(心配するにはおよびません。私たち産婦人科医がお手伝いしますので)。

前置胎盤の診断が確定した場合は、胎盤と子宮口の位置関係によって図のように分類されます。一見複雑ですが、胎盤が出口(子宮口)を全部覆っているか、一部だけ覆っているか、という単純な話です。「低置胎盤」については、場合に応じて「下から」産めることもあるので、主治医と相談しましょう。その他の「前置胎盤」はすべて帝王切開分娩が必要です。前置胎盤の帝王切開については最後にお話します。

前置胎盤だと「癒着胎盤」になりやすいと聞きましたが?

その通りで、前置胎盤の大きな問題点です。前置胎盤のうちの5~10%が「癒着胎盤」になってしまいます。通常、胎盤は赤ちゃんが出た後で自然に子宮から剥がれて外へでてくるのに(胎盤娩出)、「癒着胎盤」では、胎盤が子宮にがっちりくっついてしまい、剥がれません。癒着胎盤は「前置胎盤」でない場合にも起こることがありますが、多くは前置胎盤に起きます。「前置癒着胎盤」と名付けられています。前置癒着胎盤では多くの場合、子宮全摘出(子宮を全部取ってしまう)が必要です。赤ちゃんを帝王切開で出してから、そのまま子宮を取ることが多いです。子宮を取らずに残しておいて、胎盤が自然に吸収されるのを待つ方法もありますが、待っている最中に大出血してしまうことがあり、どの方法が一番いいかは、世界的にも決まりがありません。

「前置癒着胎盤」手術の場合には、出血が多くなるので、前もって、動脈内へ「へこませたバルーン(風船)」を入れておいて、いざという時にそれを膨らめて、子宮へいく血液を減らし、大出血を起こさぬようにしよう、など種々の工夫がされています。この手術は産科最大の難手術です。産婦人科医はこの手術を安全確実にできるように種々の工夫をしていますが、「これが最高!」という方法はまだ見つかっていません。「前置癒着胎盤」と診断された方はご不安も大きいかと思いますが、私たち産婦人科医と一緒に頑張っていきましょう。

さて、少し横道に入りますが、「何度も帝王切開をした人」ほど「癒着胎盤」を起こしやすくなります。つまり、過去1回帝王切開よりは2回、2回よりは3回と、帝王切開の回数が多くなればなるほど、「前置癒着胎盤」が起きやすい。しかし、すでに3回帝王切開をした人にとっては、「そういわれても過去は消えないから、、」というわけで、患者さんの努力では解決ができませんね。産婦人科医としては、このようなこともあって、前置胎盤でない普通のお産の場合、できる限り帝王切開は避けたい、と願い努力しているわけです。

妊娠中の管理方法は?

先ほども述べたように、前置胎盤では妊娠28週以降に性器出血の頻度が徐々に増加してきます。この場合、主に「母の血液が出て」おり「胎児の血液が失われている」わけではありません。が、大出血してしまうと、母の健康に影響が及び、母の血圧が一気に下がるので、胎児への血液循環(酸素供給)も低下してしまって、胎児(赤ちゃん)も危険な状態になってしまいます。早産の時期に帝王切開せねばならないので、未熟児が生まれ、お母さんも大出血することがあります。「予期しない自宅での出血」が一番危険なので、そんなことにならぬように、産婦人科医は妊娠31週末までに前置胎盤か否かの診断をつけます。そして、他院に管理を依頼する場合には、妊娠32週までに紹介受診が完了するようにします。これまでと違う病院への転院、ということになりますが、お母さんと赤ちゃんの安全のためです。

前置胎盤自体を「治す」方法はありません。が、「お腹が張る」と、出血する可能性が高まります。そこで、前置胎盤と診断された際には、できるだけ安静にして運動や性交渉などは控えた方がいいでしょう。

いつ頃入院したらいいか、は、まだ決まってはいませんが、早めに入院していただき、帝王切開に備える施設が多いです。少なくとも、妊娠中に出血を認めた場合はその時点で入院し、お腹が張らないように子宮収縮抑制剤を投与して、帝王切開の時期を模索します。また、33~34週頃から自分の血液をストックしておく「自己血貯血」を2~3回行うことも多く、輸血準備など万全の態勢を整えてから手術に臨みます。

お産はいつ頃?どういう方法で?

妊娠37週末(患者さんとその病院の状況によっては38週)までに予定を組んで帝王切開するのが望ましいです(予定帝王切開)。あまりに早い時期に帝王切開をすると赤ちゃんがまだ未熟のことがあり、一方、あまり遅くまで待っていると、陣痛がきてしまったり、出血が始まったりしてしまいます。板挟みなので、そこらをうまく見極めて舵取りすることになります。

予定帝王切開の手前で出血した場合には、赤ちゃん未熟を承知の上で、緊急帝王切開を行う場合もあります。予定帝王切開までもった場合も、また、緊急手術になった場合も、前置胎盤と診断された場合は麻酔科やNICU(新生児集中治療部門)のある施設での管理が望ましいでしょう。

先に述べた「前置癒着胎盤」の場合だけでなく、「癒着胎盤のない」前置胎盤であっても、普通の帝王切開に比べて出血量は多くなります。「癒着胎盤のない普通の前置胎盤」と診断されていても、ある確率で「癒着胎盤」が含まれています。現在の医学はまだ100%ではなく、診断には限界があります。前置胎盤の帝王切開で、どうしても出血が止まらない場合があり、この場合、赤ちゃんだけでなくお母さんの生命に危険が及ぶこともあります。母の生命を守るために子宮を摘出することがあります。

さて、少しだけ、「聞きたくないかもしれないお話」をします。先進国で万全体制で手術が行われた場合でも、「帝王切開時子宮摘出」のあるパーセントで母体生命が失われることが世界統計で示されています。日本の産婦人科医療レベルは極めて高く、たとえ「前置癒着胎盤」と診断されても、「命が危険だ」とまではお話(情報公開)されない方が多いようです。というのは、他の手術と異なり、そのことを話しても「ならば手術や帝王切開はしないでおく」という選択肢がないからです。選択肢がない事柄について「こわい話をしてもいいのか?」という気持ちが産婦人科医にはあります。「隠し事」をしているわけではありません。お話しを希望する方は、遠慮なく担当のドクターにお聞きするといいでしょう。産婦人科医はお母さんと赤ちゃんの健康と命を守ります。

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